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第24話 売り込み4

last update Last Updated: 2025-05-17 19:55:43

 翌日、列柱回廊の本屋を訪ねると、彼はげっそりとした顔をしていた。

「大丈夫ですか?」

「やあ、フェリシアさん。大丈夫ですよ。ただちょっと、男たちの濃すぎる情念に当てられたというか」

 まあ、BL好きじゃない人が一気読みしたらそうなるかもしれない。むしろ好きではないのにしっかりと読んでくれて、見上げたプロ根性である。

 それから売り込み方を相談した。

 もともと英雄叙事詩二次創作BLは、BL初心者を意識して書いた。

 がっつりBLではなくブロマンス寄りで、えっちなシーンはほとんどない。(ほんの少しならある)

 年若い少女から年配の女性まで、自信を持って勧められる一作である。

「ですので、売り込み方はシンプルでいいと思います。男性同士の恋に興味を示した人に渡せば、そのまま沼に引きずり込めるかと」

「沼?」

「物語の魅力にハマるという意味です。この物語では、多くのタイプの男性が登場します。誰しもきっと推しができるはず」

「推し?」

「一番のお気に入りで、一番応援したくなる登場人物ですよ」

 などというやり取りを経て、本屋は納得してくれた。

「フェリシアさんとリリアさんの熱量を見ていると、本当に大ヒットの予感がしてきました」

「そうですよ! 先輩の物語はすっごく素敵なんですから」

「あまり難しく考えず、男性同士の可能性を信じればいいのです」

 私とリリアが交互に言うと、本屋は何とも言えない顔をしていた。

 それから首を振って気持ちを切り替えたようだ。

「僕だって目利きの商売です。この物語を必ずや、帝都の大ヒットにしてみせましょう」

 本屋とはそれからも数日打ち合わせをして、その後は帝都に旅立っていった。

 私とリリアは要塞町の門まで行って、本屋の背負子を背負った背中が見えなくなるまで見送った。

 私の物語、BL英雄たちが帝都の御婦人の心を射止めるよう願いながら。

 そして、たくさんの腐女子たちの誕生を夢見ながら。

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  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第24話 売り込み4

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  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第23話 売り込み3

     金貨一枚は、そこまで大きい金額ではない。  けれど無名の新人作家、それも今までの売れ筋とはまるで違う物語の対価としては弾んでくれたと思う。  何より彼はBLそのものに理解はなくとも、商品としての価値を買ってくれた。その気概に報いたい。「はい、十分です。この物語が人気になって、続きが望まれるようになったら、あなたに続きをお渡ししますね」「じゃあ契約成立だ。この契約書に署名をお願いします」 差し出された用紙の内容を確認して、サインした。  用紙を受け取った本屋は、財布から金貨を取り出して渡してくれた。 たった一枚の金貨は、私の手の内で燦然と輝いている。  これは私が、初めて物語で稼いだお金。それがとても嬉しくて、リリアと手をぎゅっと握り合わせた。 本屋は四、五日ほど要塞町に滞在した後、帝都に向かって発つと言っていた。  一度私の物語を通しで読んでもらって、どう売り込むか相談することになった。 とりあえず今日はゼナファ軍団の基地に戻ることにする。  もらった金貨を銀貨に崩して、メイドたちにお土産の蜂蜜菓子を買った。  物語を無事買い取ってもらったと報告すると、メイドたちは我が事のように喜んでくれた。「あの英雄たちが帝都で人気になって、男性同士の恋に心ときめく人がたくさん生まれるのが、目に見えるようだわ」 メイド長はうっとりしている。  私は苦笑した。「気が早いですよ。きっと人気になると思うけど、時間はかかるでしょう」「それこそ時間の問題よ。同志が増えると思うと、今でも楽しみだわ」「帝都の親戚に手紙を出そうかしら。これからとっても胸がきゅんきゅんする物語が出るよって」 メイドたちはわいわいと熱気を帯びている。  もちろん私も楽しみだ。「フェリシア先輩。本屋さん、今日中に物語を読んでおくと言っていましたね。明日また行ってみましょう」「そうね。どうやっ

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    「う、うーん? これは……?」 少し読み進めた本屋の表情が思わしくない。  まあ、男性の彼にいきなりBLを理解しろというのも酷な話だろう。「英雄たちの絆と愛憎に焦点を当てた物語です!」 リリアが張り切って言った。  それでも本屋の顔はぱっとしないままだった。さらにしばらく読み進んで、くるくると巻物を閉じてしまう。「斬新な視点だとは思うんですが、なんというか、男同士の感情がちょっと重くて気持ち悪い……?」「なんですって!」 いきり立ったリリアを手で落ち着かせて、私は続けた。「そう感じる方はいらっしゃるかもしれませんね。でも、『他人の萎えは私の萌え』と申します。これは元々御婦人向けの物語ですの。雄々しく麗しい英雄たちの素顔、戦さごとだけではない人としての感情、ままならない心のうち……。御婦人方の大好きな恋愛小説の亜種ですよ」「なるほど?」 本屋は首を傾げて、改めて私の巻物を広げた。「やたらに男同士の色恋が出てくるので、戸惑いましたが。恋愛小説として読めば、なかなか良くできていますね。敵国の王妃に恋い焦がれる王子の心情など、切なく胸に迫るものがある。王妃がなぜか美少年になっていますけど……」「だからいいのですよ。美しい人に性別は関係ない。恋し愛する心も同様です」「しかしそれならば、男女の愛も入れたほうがいいでしょう。どうして男同士にこだわるんです」「それは……」 私はうっとりと頬に手を当てた。「私が好きだからです!」 きっぱり言い切ると、本屋はぽかんとした。「えっと」「男女の愛も否定はしません。けれど私が最も美しいと思うのは、男性同士の愛、男性同士の絆なのです。彼らの間にしかない心の動き、戸惑い、執着、慈しみ、独占欲。表面をなぞれば友情とか、仲間意識とかで片付けられる感情も、深く掘り下げていけばいくほど味わいが増す。『好き』という感情が恋愛に直結しがちな男女の愛よりも、複雑で妙味があるのです」「はあ」「それからはしたないことを言

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     夜なべして書き続けた英雄叙事詩二次創作が、ついにキリの良いところまで書き上がった。  まだ完成には程遠いが、『第一部・完』くらいの完成度にはなったと思う。  この原稿は要塞のメイドたちの間で何度も回し読みされている。彼女たちの意見を取り入れて改稿を何度か行った。  既に手応えはしっかりとある。 この国の女子たちにもBL文化は受け入れられると分かった。であれば、次の段階に移行しよう。  すなわち、BL小説の出版である! この世界の文化レベルは中世どころか古代ローマとかそのへんだ。  だから当然、活版印刷はない。木版印刷すらない。  出回っている書物は全て手書きの写本になる。 そして古代文化の最大の特徴として、書物は全てが巻物なのだ。  冊子ではなく巻物。  紙も羊皮紙や前世の植物紙ではなくて、パピルスになる。 まあ、古代中国などは竹簡・木簡だったというから、それに比べればだいぶマシだろう。  それに巻物は冊子よりも装丁コストが低い。  手作りで冊子の本を作るのは大変だ。ページを整え、綴じて、表表紙と背表紙を作る。その手間はかなりのものになる。 その点、巻物なら紙を継ぎ足して巻けばいいのだから。 とはいえ、パピルスはそれそのものがそこそこお高い。  ましてや人力の写本で複製するのだ。このユピテル帝国において、書物がそれなりに高級品なのはどうしようもないことだった。  普通の平民ではまず買えない。文学好きの貴族やお金持ちであれば、自宅に書庫を持っているそうだが。 私の実家は一応貴族だけど、あいつら本を読むような教養も頭も持っていない。当然、書庫などなかった。あるのはせいぜい、所有農園の帳簿くらいだ。それも使用人に任せっきりで、自分たちは文句を言ってばかりだったっけ。 あの様子じゃたぶん不正な裏帳簿とかがある。まぁそれは私の知ったことじゃない。 とにかく、そういう事情もあって、この国の本屋は前世の感覚で言えば少ない。  けれど存在しないわけではない。帝都まで行けばたくさんの本屋があるし、この辺境の

  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第20話 天然

     義妹と私は半年しか生まれが違わない。  つまりフェリシアがお母さんのお腹にいた頃にはもう、父は愛人とよろしくやっていたということだ。  控えめに言ってクソである。 私は前世成人女性の記憶があるからいいものの、本当に幼かった『フェリシア』はかわいそうすぎる。「そんな事情があったとは……」 最後に軍団長が深いため息をついた。「承知した。きみの希望を聞き入れよう。フェリシア嬢がここに残ってくれるのは、喜ばしいことだからな」「ありがとうございます……!」 これからもBLパラダイスで暮らせる!  そう思うと嬉しくて、はらりと涙がこぼれてしまった。  なんか男性三人が絶句しているが、なんじゃ。 私は涙をさっと拭うと、笑顔を浮かべた。「今後もメイドのお仕事、頑張りますね。それに光の魔力の練習も。私の力がゼナファ軍団に役立てるなら、何だっていたします」「あぁ、頼んだ」 話は終わった。一礼して部屋の外に出ると、廊下でメイドのみんなが待っていた。「軍団長のお話、どうでしたか?」 リリアが心配そうに聞いてくるので、私は微笑んだ。「帝都に帰らないかと言われたけど、断ったわ。だって私、この町とみんなが大好きなんだもの!」「フェリシア! あんたって子は、もう!」 メイド長がぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。  他のメイドたちに囲まれて、笑いあった。 周囲を見渡せばBL天国。そして腐女子仲間。萌えはたっぷり、友だちたくさん。暮らしやすくてご飯はおいしい。仕事も執筆も頑張っちゃう。  あぁ、幸せだなあ! 心からそう思って、みんなと一緒に笑い続けた。+++【三人称】 フェリシアが辞した執務室にて。  軍団長とベネディクト、クィンタは彼女の言葉と態度に深く心を打たれていた。「小さい頃から家族に疎まれて、それなのにあんなに健気で。いい子すぎるだろ、フェリシアちゃん」 クィンタが言えばベネディクトもうなずいた。「この要塞町は辺境で軍団兵の拠点。帝都育ちの令嬢が住むような場所ではない。けれど彼女は雑事を率先してこなし、嫌な顔ひとつしない。ましてやあの聖女の力。傷つき血まみれになったクィンタを迷わず救った、神々しい姿」「ああ。あれだけの瘴気がきれいさっぱり消えたんだ。今でも信じられねえよ。ぞっとする瘴気が暖かい光で消し飛んで、命を繋いでくれた」 

  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第19話 『フェリシア』

    「フェリシア嬢。よく来てくれた」 軍団長は立ち上がって私を迎えてくれた。 ベネディクトとクィンタは礼の姿勢を取る。「体調はもう平気かね?」「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」「当然のことだ。きみは死に至る傷を見事に癒した、真の聖女なのだから」 軍団長の言葉に目を丸くしていると、ベネディクトとクィンタが進み出た。「フェリシアちゃんは命の恩人だ。おかげで死の淵から舞い戻ることができた」「これを助けてくれて感謝している。聖女の奇跡を目の当たりにして、心から感動した」 そうして二人揃って私の足元に跪いた!「あ、あの! どうか頭を上げてください!」 そういう姿勢は私じゃなくてお互いにやってください。 そのほうが私、元気になるから。 というか、イケメン二人が跪いてるの絵になるな。 これで跪く相手が軍団長だったらどうだろう。……うむ、ええのう。 軍団長を頂点とした三角関係、なかなかオツ。 などと私が妄想に興じていると、彼らは立ち上がった。ちぇ。 軍団長が改めて口を開く。「しかし聖女の力が本物であるならば、帝都の皇帝陛下はいったい何をなさっておいでなのだろう。聖女は皇家に嫁ぐ決まりなのに」「婚約破棄と帝都追放をされたと聞いたが?」 ベネディクトが言うと、クィンタが顔を歪ませた。「何だそりゃ。フェリシアちゃんを手放すなんざ、ありえないだろ。皇帝陛下は頭腐ってんのか」「クィンタ。わきまえろ」 ベネディクトは言葉ではそう言うが、不満そうな顔をしている。 軍団長が続けた。「何か行き違いがあったのだろうか。フェリシア嬢、今回の件を陛下に報告して帝都に戻れるよう取り図ろう。少し待っていてくれ」「いいえ、軍団長。報告は不要です」 私が言うと、皆がこちらを見た。「帝都への報告は不要? どういう意味かな」 いつもは穏やかな軍

  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第18話 『フェリシア』

     全身がとても寒い。 寒くて冷たくて、息が苦しい。 体が重い。思うように動けない。そう、まるで水の中にいるようだ。 ごぼり、口から空気の泡が漏れた。 本当に水の中にいるみたいだった。 同時に気づいた。――これは夢だ。 私が……フェリシアが八歳のとき、義妹の手で冬の池に突き落とされたあの日の夢。(ねえ、待って。行かないで) もがき苦しんでいる小さな女の子に呼びかける。 あれは、フェリシアだ。 彼女は苦しみを諦めて、そのまま命を手放そうとしていた。(行っては駄目。もう少しだけ頑張って!) けれどその子は首を振って、いなくなってしまった。 それから意識が急浮上する。 おおごとになるのを恐れた侍女が、フェリシアを池から引き上げて助けたのだ。 それからフェリシアは『私』になって、日常が再開されてしまった。 そうか。 今、やっと分かった。 私は転生したんじゃない。 フェリシアの体を乗っ取ってしまったんだ。 ごめん、フェリシア。助けてあげられなくて。 ごめん、フェリシア。その後もずっと辛い思いをさせて。 こんなことならもっと早くに実家を逃げ出して、辛い思い出から遠ざかればよかった。 ふと、指先に何かが触る。 手を動かして輪郭を確かめてみると、箱だった。 あぁ、そうだ。 フェリシアの本当のお母様の形見、嫁入り道具のネックレスが入った箱。 何もかも取り上げられる前に隠しておいて、帝都を出るとき持ち出したんだっけ。 これは我ながらよくやったと思う。 フェリシアの心が少しでも残っていて、動けたのかもしれない。だったらとても嬉しい。 夢の中、ぼんやりとした意識で思う。(私も少しは、役に立てたかな……)「フェリシア先輩!」

  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第17話 魔物の襲来

    「瘴気……」 瘴気については帝都にいるときに学んだ。  魔物の力の源泉で、人間にとっては猛毒となるもの。  五大属性の魔力とは全くの別物で、聖女の力によってのみ浄化されると言われている。 聖女の力。  私はベネディクトを振り仰いだ。「もしきみが本当に聖女の力を持っているのなら――」 彼は手を握りしめる。  それから迷いなく床に膝をついた。……私の前に跪くように。「どうか、こいつを助けてやってくれ。こいつはここで死んでいい男じゃない。そのためならば、私は何でもしよう」「やめろ、ベネディクト。フェリシアちゃんを、困らせるんじゃねえ……ガハッ」 クィンタが血を吐いた。  怪我は確実に悪化している。このままだと彼は本当に死んでしまうだろう。 ――助けたかった。心から。  だって私は、ベネディクト×クィンタが最推しカプなのだ。  こんな形で推しを失いたくない。推しは末永く幸せにならなくてはいけない! それに涙を流し続けている、魔法隊の少年。  彼だってなかなかの逸物だ。命の恩人の憧れから、きっと素晴らしい攻め様に成長してくれるはずなんだ。 でも私は名ばかり聖女で、昔の聖女が使えたはずの光の魔法は身につけていない。  別にサボっていたわけじゃない。光の魔法それそのものがあやふやな伝説で、誰も教えてくれなかった。  先代の聖女様はずっと昔の人。もう記録は残っていなかったのだ。「記録……」 ふと、思い出した。先代の聖女様が書き残したと言われている古文書のことを。  古文書というが実は聖女様の日記帳で、他愛もないことばかり書かれていた。今日の天気だとか、道端のお花がきれいだったとか、夫である皇帝がイケメンだとか。  その中にこんな一文があった。『今日もわたしは幸せです。わたし自身が幸せであり、他者と国の幸福を祈ることこそが聖女の力の源となる』 あまりに抽象的で、当時は読み飛ばしてしまった文。  聖女の祭壇にも似た記述があったっけ。

  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第16話 魔物の襲来

     それは突然の出来事だった。  昼下がりの平和な時間を打ち砕くように、鐘の音が高く鳴り響く。「魔物の襲撃だ!」「位置は北に三マイル! 昆虫系の群れ!」 情報が怒号のように交わされる。  兵士たちは即時に訓練を中止して、要塞前の広場に集まった。 慣れた動きで隊列を組み、整然とした列を作る。「皆の者! 久方ぶりの襲撃だが、たるんでいる者はいないな?」 整列した兵士たちを前にして、軍団長が声を張り上げた。  その声はいつもの穏やかなものではなく、軍人としての威厳に満ちていた。  隣には副軍団長のベネディクトが控えて、鋭い視線を向けていた。「この町を、国を守るため、人々に害をなす魔物は速やかに始末せねばならん。――開門、出撃!」 オオ――ッ!  ときの声が上がる。  騎乗した軍団長とベネディクトを先頭に、兵士たちは続々と門を出ていった。「魔物の襲撃……。皆さん、大丈夫でしょうか」 兵士たちが去った要塞の中で、私は不安な思いに駆られる。「きっと大丈夫ですよ。ゼナファ軍団の兵士たちは、歴戦の強者ですから」 リリアが私の手を取って励ましてくれた。  メイド長は息を吐く。「ここしばらく魔物が出なかったから、安心していたのに。やっぱりこうなってしまうんだね」 私が要塞に来てからもう二月以上になるが、魔物の襲撃は初めてだった。「いつもはもっと頻繁なのですか?」「ええ。一ヶ月に一度以上は魔物討伐が行われていたわ。そのたびに怪我人が出て……」「ずっと平和でいてほしかったのに」「カプでお気に入りの兵士さん、そうじゃない人も、どうか無事で」 メイドたちも落ち着かない様子で小声で話している。  メイド長が両手を打ち鳴らした。「さあさあ、みんな! 私たちが湿っぽくしていたって仕方ない。いつ

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